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予防は千の治療に勝る - 『上流思考 - 「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』ダン・ヒース

対症療法ではなく、問題の根本に当たれ、という本を読んだ。

あなたは友人と川岸でピクニックをしている。突然、川の方から叫び声が聞こえた。子どもがおぼれている。あなたと友人は反射的に川に飛び込み、子どもを抱きかかえて岸まで泳いだ。息をつくまもなく、別の子どもの叫び声が聞こえた。 またもや川に飛び込んで子どもを救い出す。するとまた、別の子どもがもがいているのが見える。そしてまた一人……。これじゃとても間に合わない。

ふと見ると、友人が川から上がって、どこかへ行こうとする。「おい、どこへ行くんだよ?」。あなたの呼びかけに、友人は答える。「上流に行って、子どもを川に投げ込んでいるやつをとっちめてやる」

(3ページ)

つまりそういうことだろう。

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ただこれ「今だけ、金だけ、自分だけ」の日本人が最も苦手とする思考法であり、さらに言えば「上流」を「まだ見ぬ未来」と読み替えると、すなわち「投資」という側面もあるわけで、これも日本人、不得手。目の前の細々した問題を、現場が頑張ってなんとか解決しちゃうというのが、日本人の宿痾なので、上流思考は向いてなさそう。


「8割おじさん」こと西浦博・京都大教授の新型コロナ感染者数予測が、いい方向に外れてもぶっ叩くというのも、下流にどっぷり浸かっているからこそ。

「 公衆衛生で成果を上げると、 誰も病気になっていないじゃないかと言って、予算を削られるんです」

(286・287ページ)

「 私たちはインスリンには1人年間4万ドルも支払うのに、糖尿病予防には1000ドルもかけていません」

(287ページ)


部分最適と全体最適の相克などは日本に限らず、森羅万象を把握できない以上、どうしても生じるジレンマ。

イギリス環境省は、さまざまな種類の袋を1回使用するごとの環境負荷を算出し、紙袋なら3回、綿のエコバッグなら131回使わなければ、レジ袋よりもエコにならないとしている。

おまけに紙袋やエコバッグの製造過程は、レジ袋に比べて水質を汚染する物質の排出が多い。レジ袋に比べてリサイクルもずっと難しい。

そんなこんなで、部分と全体の利益相反の問題が生じる。 河川や海の生物の保護が主な狙いなら、レジ袋を禁止するのは得策だ。だが環境全体の改善を目指すなら、得策とは言い切れない。相反する影響を考え合わせる必要がある。

(279ページ)


上流思考には限度がなく、上に遡れば遡るほど、問題を解決した時のインパクトが大きいことが、多くの実例とともに解説されている。絶えず視線を上流に向ける癖は、身につけておきたい。

【目次】
CHAPTER 1 上流へ向かえ

SECTION 1 「上流思考」を阻む3つの障害
CHAPTER 2 問題盲
CHAPTER 3 当事者意識の欠如
CHAPTER 4トンネリング

SECTION 2 「上流リーダー」になれる7つの質問
CHAPTER 5 「しかるべき人たち」をまとめるには?
CHAPTER 6 「システム」を変えるには?
CHAPTER 7 「テコの支点」はどこにある?
CHAPTER 8 問題の「早期警報」を得るには?
CHAPTER 9 「成否」を正しく測るには?
CHAPTER 10 「害」をおよぼさないためには?
CHAPTER 11 誰が「起こってないこと」のためにお金を払うか?

SECTION 3 さらに上流へ
CHAPTER 12 預言者のジレンマ
CHAPTER 13 あなたも上流へ