年末年始はSF小説でも読んで、いい気持ちになろうと思い、アンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を買っておいたのだが、無事に正月休みの間に読み終えた。
タイトルを日本語に意訳すると『一か八か大作戦』。
アメリカンフットボールのヘイルメリーパスとは、試合終盤に、負けているチームが、一か八かの神頼みを込めて、タッチダウンによる逆転を目指して行うプレイである。
Hail Mary を直訳すると、「聖母マリアが降ってくる」という意味であり、神頼みという局面を反映したネーミングといえる。ヘイルメリー、ヘルメリなどと略されることもある。
漫画『アイシールド21』の読者なら知ってるはず。
で、その『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。
宇宙船の中で記憶を失った男がたった一人で目覚めて、なにがなんだかよくわからない状況の中で少しずつ記憶を取り戻しながら活動していくという、Nintendo Switchの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』スタイルの導入で一気に引き込まれたし、実在するテクノロジーをベースに世界観が構築されているので、荒唐無稽というわけでもなく、地に足のついたSF(主人公はほぼ宇宙空間にいるので微妙な表現だが)で、最後まで楽しく読めたのだが、作品とは関係のない部分個人的にはケチがついてしまい、至福の読書体験とはならなかった。
以下、ネタバレ注意。と言っても、購入すれば嫌でも目に入る本の「帯」についての話なので、ネタバレもクソもないのだが一応、注意しておく。
読んでる間、主人公の脳内イメージがずっとライアン・ゴズリングで固定されてしまい、ほかの顔での再生が不可になってしまった。さらにそこから、ストラットがエマ・ストーンに自動的に決定されて、宇宙ラ・ラ・ランドに。さらにさらに、映画化ということで、ロッキーは全身タイツのアンディ・サーキスによるモーションキャプチャーに変換されてしまった。もはや想像力が働く余地なし。

基本的に回想と実験と「会話」に基づいたコミュニケーションが物語の大半を占めるので、2時間ぐらいの映画にして楽しい作品になるかどうかも疑問なのだが、それはともかくとして、誰で映画化するという情報は、読書の純粋な楽しみを減衰させる。
これを帯に書くと、当たり前のSFの素養がある読者なら、「あ、途中で異星人が出てくるのね」と丸わかりになると思うのだが、これ書く意味あるのかな。
作品に罪はなく、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』はおすすめだが、とにかく、帯に邪魔をされてしまった。たのむよ、早川書房。