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「貧乏臭さ」への解毒剤 - 『世界大富豪列伝』福田和也

「貧乏」は財産の多寡のうちの寡の状態を説明する言葉なのに対して、「貧乏臭い」は、財産の多寡には関係なく、世の中の森羅万象に対峙する際の心の持ち用や態度のことなので、「貧乏臭い」はすべからく唾棄すべきものだし、本当に嫌い。で、世の中がどんどん貧乏臭くなるばかりなので、福田和也の本を読む。特に本書のような、豪奢で過剰で景気のいい本を、解毒剤として。

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雑誌『週刊現代』での連載「蕩尽の快楽 世界大富豪列伝」を、時系列に再編集した上下巻。洋の東西を問わず、でかい銭を稼いで、あるいは親から引き継いで、盛大にばら撒いた偉人たち43人の、人生の短評集。週刊誌の連載なので、それぞれのボリュームはないが、どれも面白く読める。


あとがきにあるように「本来ならかなり浩瀚な評伝をもって取り組まなければならない偉材ばかり」なのだが、それぞれの巻末にしっかりと「かなり浩瀚な評伝」が参考文献として紹介されているので、ブックガイドとしても優れている。ジョン・D・ロックフェラーの評伝『タイタン』などは、今すぐにもで読みたい。


装丁も2冊を並べて完成するもので、好み。

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福田和也の博覧強記から溢れ出るトリビアも、楽しい。

幸吉は、小林豊造に、白羽の矢をたてた。
明治三十六年に文部省から派遣され、欧米の貴金属技術を研究、調査した人物である。
小林は、東京高等工業学校の教員であったが、当時、最も斬新な装身具を作っていた村松万三郎商店の顧問を兼ねていたのである。
明治四十三年、幸吉は、小林を工場長として迎え入れた。
かくして幸吉は、特許権に守られて、独占的な地位を獲得するなかで、小林にダイヤモンド研磨の技術も身につけさせたのである。
この小林豊造は、日本を代表する文芸評論家、小林秀雄の父である。

(19-20世紀篇「御木本幸吉」102・103ページ)

肥満のため体調を壊し、トレーニングと食事制限に励んだが、常に胸囲よりも胴囲が大きい体型だった。現在のヤンキースの縦縞のユニフォームは、ベーブを少しでも細く見せるためのデザインであったといわれている。

(20-21世紀篇「ベーブ・ルース」26ページ)

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よっぽど注意深く生きないと、新聞にしてもテレビにしても人にしても、ちょっと油断すれば「貧乏臭い」がするりと入り込んでくるので、貧気払いにこういった本を読むのは、いいことだと思う。ウィズコロナでも、貧乏臭くない人生は、送れるはず。

【目次】
19-20世紀篇
アルフレート・クルップ/アルフレッド・ノーベル/大倉喜八郎/ジョン・D・ロックフェラー/渋沢栄一/ルイス・C・ティファニー/高峰譲吉/御木本幸吉/ヘンリー・フォード/小林一三/パブロ・ピカソ/五島慶太/ココ・シャネル/正力松太郎/谷崎潤一郎/梅原龍三郎/石橋正二郎/長尾よね/チャールズ・チャップリン/遠山元一/ポール・ゲティ/山崎種二

20-21世紀篇
松下幸之助/ベーブ・ルース/藤山愛一郎/是川銀蔵/エンツォ・フェラーリ/上田清次郎/林芙美子/本田宗一郎/安藤百福/麻生太賀吉/田中角栄/力道山/アンディ・ウォーホル/藤山寛美/オードリー・ヘプバーン/勝新太郎/福富太郎/エルヴィス・プレスリー/大塚明彦/ドナルド・トランプ/アルワリード・ビン・タラール王子