最初に言っておきたいが、帯は完全な誇大広告。筒井ワールドは「炸裂」していないし、面白さが「爆発」するような内容でもない。
学生時代、貪るように筒井康隆の文章を読んだ。小説もエッセイも。今は、すべてを追いかけるわけではなくなったが、それでもやはり新刊が出れば気になるし、いずれは息子と娘も読んで楽しんでくれたらと、願っている。
本書はそんな文豪が、思うままに自分の好きな古きよき映画について語ったもの。一応、テーマは「活劇映画における擬似家族」と設定されているが、そこらへんはわりとどうでもよく、文豪は書きたいものを書きたいように書いたエッセイ。まえがきにも「小生、読者とともに懐かしい映画の思い出にどっぷりと浸りたいのだ」とある。
また、洋画における活劇映画は何もギャング映画に限ったことではないので、冒険ものや探検ものや探偵ものや戦争ものなども含めて「活劇映画」と総称させていただくこととするが、以下、こうした映画の中に描かれる運命共同体としての疑似家族を取りあげ、文章として再録することによって小生、読者とともに懐かしい映画の思い出にどっぷりと浸りたいのだ。
(4ページ)
おじいちゃんの、滋味あふれる昔話を、こちらも楽しく読めばいいのだ。
これを書くため、映画に詳しい嫁の筒井智子(息子である故・筒井伸輔の妻)にもヴィデオとこの文章を検討してもらったが、今ではCGでしか見られない馬の群れが駈けていく場面などに感動したという感想を貰い、昔の映画ばかり取りあげてしまった事はあの時代の映画のよさを示すためにもつくづくよかったと思っている。
(163ページ)
読み手が勝手に忖度してもしょうがないのだが、昨年2月に食道癌で、息子であり画家の筒井伸輔さんを失っている。世代は俺の一回り上だが、『やつあたり文化論』や『玄笑地帯』で子供の頃の様子が描かれているのを楽しく読んだし、俺も子供を授かって息子がいるので、死去についてのブログ記事を読んだときは、とても悲しかった。
俺がコロナで死んだら後に残るは女二人子供一人。長生きしなくちゃなあ。
(『偽文士日碌 二〇二〇年 二月二十八日(金)』より)
息子の嫁に手伝ってもらいながら、家族についての映画を振り返って語る。取り上げられている作品がどれも、筒井伸輔さんが生まれる前のもの、というのも、なんとなくわかるような気もする。
というか、新しい映画はなぜか取りあげる気がしなかったのだ。
(163ページ)
話は変わるが、文豪が生きているうちに、本人監修による全集を出していただきたい。自分の葬式を入念に準備して、参列者を楽しませたい、という内容のエッセイがある。そのエッセイは、せっかく準備した葬式を自分で見ることができないのが、甚だ残念である、と結ばれていた。葬式のかわりに、レガシーとして自身の手による全集を、ぜひ。
家族と擬似家族
1、「白熱」「血まみれギャングママ」「前科者」
2、ハワード・ホークス監督「はたり!」の擬似家族
3、ジョン・ヒューストンに始まるボギーの一族
4、西部劇の兄弟
あとがき
本書で、筒井節ながらも淡々とした筆致で描かれた再録を読んで、実際の作品を観たくなったので、以下にリストアップしておく。観て、本書を再読したい。とりあえずAmazon Prome Videoなどで手軽にアクセスできるものを。