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ネイチャーが僕らをフィックスしてくれる - 『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』フローレンス・ウィリアムズ

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右手を指定席にしたスマホに目と脳を占領されてしまった現代人が忘れつつあること、「自然」に触れてその中で過ごすことがいかに心身にとって必要か、についての本。

本書は、詩人や哲学者には太古から自明であったこと、つまり「どこにいるか」が幸福度を左右するという事実の背景にある科学をさぐっていく。アリストテレスは、野外を逍遥すれば頭を冴えると信じていた。ダーウィン、テスラ、アインシュタインはみな庭や立木を歩きながら思索にふけった。 アメリカ歴代大統領の中でもとりわけ多くの業績を残し、「テディ」の愛称で親しまれたセオドア・ルーズベルトにいたっては、大自然の中に数か月も逃げ込んだものだ。

(14ページ)

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日本の森林浴や韓国の山林治癒プログラムなどの各国の取り組みや、各種実験結果の分析、著者の実体験など、さまざまなアプローチから多彩に語られているが、とにかく一言でまとめると、「もっと自然を」。


1分間でもいいし、月に5時間でもいいし、まとめて3日間ならなおよし。

一分間ユーカリの木を見つめれば寛大になり、自然の中で三日間過ごせば人との絆が深まり、気持ちが穏やかになり、元気が出ることはわかっている。となれば一週間かけて心を解放したらどうなるのだろう?

(272・273ページ)

さらに進んで、1週間ぶっ続けで自然の中で過ごせば。

本書では、軍役を通じてPTSDやMST(軍内性的トラウマ)と診断され、実際に苦しみと障害の中で生きていくことを余儀なくされている女性たちが、アイダホ州サーモン川を1週間かけてラフティングと野営で過ごす中で、どのように癒されていくのかが、描かれている。自然は、どのような薬やカウンセリングよりも、問答無用で癒してくる。

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【アイダホ州サーモン川中流域】

いきなりテントなどを買い込んでキャンプ、はちょっとハードルが高い。まずは、散歩から。

ワーズワースと妹のドロシーは、1813年に『高慢と偏見』を発表したジェイン・オースティンと同時代に生きた。当時、教養と健康のために散歩をするという考え方を広く知られるようになっていたが、まだ散歩をする女性は珍めずらしかった。そのため、散歩をする女性は自立した女性の証でもあり、ドロシー自身も、オースティンの著書の女性主人公たちも散歩を愛好した。

(232ページ)

そして「自然」と触れ合いながら生きていけるような、自宅や庭を作ろうと思う。本書によれば、「自然」の映像やVRでも効果があるとのことなので、観葉植物や作られた庭も、我々家族を癒して、壊れかけたら修理(FIX)してくれるだろう。

【目次】
プロローグ 戸外の大気は人を元気にする強壮剤

PART 1 「ネイチャーニューロン」を探して
1 バイオフィリア効果
2 脳を最大限に活かすには

PART 2 最初の五分間 ー 身近な自然
3 嗅覚とフィトンチッド
4 聴覚と小鳥のさえずり
5 視覚とフラクタル

PART 3 一か月に五時間 ー 自然に触れる習慣で変わる
6 フィンランドの森で
7 スコットランドとスウェーデンの取り組み
8 ぶらぶら歩きの効果

PART 4 三日間 ー 大自然が脳に与える効果
9 畏怖の念と心の平穏
10 PTSDに対する激流ラフティングの効果
11 自然のなかで伸びるADHDの子どもたち

PART 5 庭のなかの都市
12 都会生活者が自然の恩恵にあずかるには

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