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数字で世界を腑分けする - 『Numbers Don't Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!』 バーツラフ・シュミル

数字が明かす驚愕の事実

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【『Numbers Don't Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!』】


『エネルギーの人類史』などの大作でおなじみのバーツラフ・シュミル氏の新刊だが、巻末の謝辞によると月刊の機関誌の連載をまとめたものということで、「数字」を通して世界を腑分けするという大きなテーマはあるものの、エッセイのような筆致で書かれており、気軽に読める。気軽に読めるがどれも興味深い新たな視点を与えてくれるものがばかり。人々・国々・食・環境・エネルギー・移動・機械の7つの分野に分けられており、どこから読んでもいいので、通読後はトイレに置いておくのもいいことだと思う。

Numbers Don't Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!

Numbers Don't Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!

以下、気になった部分をいくつか、記録として。

投資に対する最高の利益 - ワクチン接種

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ワクチン接種を被用便益比を算出したら、こんなに妙味のある投資はないという結果になったという章。世界的に流行する前の文章なので、新型コロナウイルスのワクチンについての記述はないが、ワクチン接種が一向に進まずにみんなが不景気な顔ししている日本と、ワクチン接種が進んでそれなりに経済活動が動き始めている海外とを比べると、さもありなんと感じる。

費用便益比は、ワクチン価格、そしてワクチン供給網の構築にどれだけの費用がかかるかを「費用」とし、感染や死亡を防いだおかげでどれだけの損失をまぬかれるかを「便益」として推定した。すると感染者の医療費、感染していなければ得られたはずの賃金、感染による生産性の低下などを考えあわせた結果、ワクチンに1ドル投資するたびに16ドルの便益が見込めることが判明したのである。

(16ページ)

わたしたちの進化の秘密 - 長く走れるのは、なぜか?

人間は二足歩行を獲得したことにより、万物の霊長への道を歩み始めた。なぜか。

(二足歩行の)第一の利点は、呼吸法が変わったこと。四足動物は1歩につき1呼吸しかできない。前肢が受ける衝撃を胸部で吸収しなければならないからだ。ところが二足歩行ができるようになった人間は、呼吸する頻度を自在にかえられるため、エネルギーを柔軟に使えるようになったのである。

(46ページ)

この二足歩行と、効率的な発汗機能により、人間は捕食者として他の動物を長時間走って追いかけて仕留めて食うことができるようになった。人間は考える葦である前に、汗をだらだら流しながら二本足で走る猿であったようだ。

日本の将来への懸念

すなわち日本という国は、人間の一生ほどの短期のうちに、戦後の焼け野原から立ち上がり、世界から称賛され、おそれられる経済大国にのぼりつめ、そのあとは長期の停滞に苦しみ、高齢化社会に突入したのだ。

(85ページ)

著者は、親日家ではあるようだが、日本の未来については正しく悲観的。あわせて、中国のこれからについても、日本の合わせ鏡としてかなり懐疑的で、スケールを大きくした日本のようにとらえている。

鶏肉は世界を制するか?

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全米鶏肉協議会によれば、鶏舎でブロイラー1羽に割り当てられる面積は560〜650平方センチメートル。A4コピー用紙1枚よりやや広い程度の面積しかないので、どうやっても身動きできないのだ。

(139ページ)

牛肉や豚肉よりも高効率なタンパク源として鶏肉が優れているが、その鶏肉の原料であるブロイラーちゃんは劣悪な環境で無理矢理育てられている。我々にできることは、感謝して残さず食うことと、あまり安売りを喜ばないこと。

牛の惑星

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微生物や昆虫などを除いた、ある程度の大きさのある生物を「生物量」、要するにその種全体の総重量で比較すると、地球はどうやら畜牛と人間の惑星のよう。

コンクリートの具体的な事実

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中国の空前の建設ラッシュを如実に示すデータを次に挙げよう。中国は、なんと2018〜19年の2年間だけで、アメリカが20世紀全体を通じて使用した量(約46億トン)を超える量(約47億トン)を消費したのだ。

(175ページ)

アメリカの100年分以上を2年間で浪費する中国。ただし、コンクリートの寿命は永遠ではなく、晴れてようが雨が降ろうが、暑かろうが寒かろうが、コンクリートは必ず劣化するので、アメリカの100年分以上のコンクリートが、これから先のどこかの2年間で全てメンテナンスや更新が必要になるという中国は、どうするのだろう。もちろんアメリカでもインフラの老朽化が問題になっているし、日本でも新幹線のトンネルの天井が崩れて落石したりもしているが、一気に47億トンの更新がくる中国は、さすがスケールが違う。

三層ガラス窓 - 確実な省エネ策

確立されていない技術で問題を解決使用するのは、エネルギー政策にとっては災いのもとだ。ソーラーパワーで走る自動運転車、安全性がきわめて高い小型原子炉、遺伝子操作による光合成強化など、例は尽きない。

(187ページ)

著者、夢物語のような「イノベーション」に期待するのがあまり好きではなく、あくまでもファクトに基づいたリアリスト。で、そんなリアリストが「確実な省エネ策」として世界中でもっと真剣に取り入れられるべきとするのが、住宅などでの三層ガラス窓の採用。これは、エコで快適な自宅建立を目論んでいる俺にとっても興味深いトピックだった。

そもそも、世間では先見の明があると言われている人たちでさえ、なぜ新たなエネルギー変換技術といった見通しの悪いテクノロジーに資金を投じたがるのだろう。実際にうまくいくかどうかわからないし、仮にうまくいったとしても、環境に悪影響を及ぼしかねないというのに。シンプルな断熱技術を活用する方が、よほど効果があるというものだ。

(190ページ)

膨れあがるデータ量 - あまりに多く、あまりに速い

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2016年になると、全世界の年間データ生成量は16ゼタバイト(1ゼタバイトは10の21乗バイト)を超え、2025年には160ゼタバイトほどになると予想されている。

(326ページ)

真のイノベーションとは

国の豊かさを測る指標として、GDPはやはりまだ人気がある。日本は中国に抜かれて現在第3位。でも、日本人、貧乏臭い。GDPってどうなの。

アルコール飲料の売り上げが伸びて、飲酒や薬物の影響下での運転が増えて、自動車事故が増えて、けが人が増えて、救急病院での治療が増えて、投獄される人の数が増えても、GDPは増加するのだ。さらに、熱帯地方で違法な森林伐採が増え、森林破壊が進み、生物多様性が失われ、木材の売り上げが伸びても、やはりGDPは増加する。

(331ページ)

国民1人あたりのGDPといった数字も、間違いなく根拠のある数字で、そこにはなんらかの真実が含まれてはいるのだろうし、数字とファクトに基づいて判断する知性が欲しいとは思う。ただ、やはりそれはただの数字であり、その向こうにいる人が幸せか、自分が幸せか、家族や地球が幸せかを大切にしていく知恵も欲しい。


Numbers Don't Lie: 世界のリアルは「数字」でつかめ!

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